POLARBEAR-1

Introduction 近年の観測によって宇宙論の標準理論であるΛCDMモデルが確立した。 しかし、ΛCDMだけでは説明の出来ない「平坦性問題」「地平線問題」「揺らぎの起源」など、いくつかの問題点が指摘されている。 インフレーション理論は宇宙の初期に加速膨張を仮定する事でこれらの未解決問題を同時に解決できる最も有力な理論の1つである。 しかし、インフレーション理論の決定的な証拠となる「原始重力波」はまだ観測されていない。 また、もう1つの未解決問題として宇宙の暗黒成分の解明がある。 この問題を解明する1つの方法が大規模構造の精密測定である。 大規模構造は宇宙の暗黒物質の密度の揺らぎであり、それを調べる事によって暗黒エネルギーや宇宙のニュートリノの質量和に制限を与える事ができる。 しかし、暗黒物質の大規模構造は直接観測する事が出来ないため様々な測定で推定されている。 そこで、近年注目されている方法の1つが光が大規模構造の作る重力によって曲げられる「重力レンズ効果」であり、様々な方法で検証されている。 これらの精密検証を行う事が宇宙論の未解決問題を解決する為に必要な課題である。
B-mode偏光 インフレーション起源の原始重力波と大規模構造起源の重力レンズ効果を同時に測定する有力な手段として、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の特殊な偏光パターン(Bモード偏光)を測定する方法が近年提唱されている[3]。Bモード偏光は2つの角度スケールに信号があり、原始重力波起源Bモードが2度、重力レンズ起源Bモードが0.1度に対応する。さらに、双方のBモード偏光は可視光での銀河観測と比較して理論的・天文的な不定性が小さいため、原始重力波やダークマターの成分、ニュートリノの質量和に対してより強い制限を与える事が出来る。原始重力波起源のBモード偏光の強度はrというパラメータを用いて記述できる。現在の観測によるrの制限はr < 0.09 (信頼度95%)であり、次世代望遠鏡によってr~0.01までの探索を行う。また、ニュートリノ質量和に対しては90meV(信頼度68%)までの制限が可能となる。これは、ニュートリノ振動実験で示唆されている下限値(質量が逆階層を持つ場合)と同程度であり、質量和に対する有限な効果を観測できる可能性がある。

POLARBEAR-1 POLARBEAR-1実験はチリのアタカマで観測を行う宇宙マイクロ波背景放射偏光実験である。POLARBEAR-1実験は2012年から観測を開始し、現在は第4シーズンの観測を行っている。POLARBEAR実験は250mKに冷却されたTESボロメータを1274個用いる事によってB-modeと呼ばれる偏光パターンを測定する。観測周波数は150GHzである。

POLARBEAR-2

Introduction POLARBEAR-2 (PB-2) はチリのアタカマ砂漠で行う地上 観測実験である。左の図は PB-2 受信器システムの全体図である。現在は 2016 年の観測開始を目指して、 PB-2 受信器システムの総合評価試験を行っている。PB-2 の特徴は(i)250 mK に冷却した超伝導ボロメータを 7588 個用いて統計感度を向上する
(ii)150 GHz と 95 GHz の周波数帯で同時観測して銀河からの輻射の影響を抑える(iii)光学系を冷却してノイズを抑制する である。地上実験において実験の感度を上げるには、各検出器の感度は大気からの輻射によって制限され るため検出器の数を増やす事が必要不可欠である。先行研究における検出器数は POLARBEAR-1(PB-1) が 1274 個、BICEP-2 が 512 個であり、PB-2 は 7588 個の検出器を用いる。
感度と期待される物理 先行研究の結果から、B モードの検出を r = 0.01 の感度で 行う為には、「高統計の観測」と「ダストの除去」が必要不可欠である事が明らかになった。従来の CMB 偏光実験である BICEP2 や SPTpolは、統計数が足りない為に r = 0.01 までの主要なインフレーション起源の B モード検出が困難であった。また、先行実験では銀河由来のダストを差し引く為に Planck 衛星のデータを外挿しているが、その不定 性が大きく r ∼ 0.01 の精密観測には使えない。PB-2 では、2 波長の 同時観測によって、ダストの効果的な差し引きが可能となる。その結 果、r ∼ 0.01 の感度で CMB 偏光を検出する事が出来る。 POLARBEAR-2 の焦点面の大きさは世界最大級であり、これによって従来と比較して 10 倍の統計を実現する。また、検出器にはシニアスア ンテナと呼ばれるアンテナを設置している。シニアスア>ンテナによりCMBを広帯域にわかって検出でき、検出後に適当なバンドフィルターを課す事で2つの周波数の同時観測が可能になる。これによって、ダスト由来のノイズを抑制する事が可能になる 。

Simons Array

Introduction Simons Array(SA) 実験において広い角度スケールにわたるBモード偏光を測定する。SA 実験はチリのアタカマ砂漠で行う地上 観測実験であり、PB-2 望遠鏡を応用・改造した受信器システムを 3 台複 製し同時観測を行う。図はチリでの観測を行うSA 実験望遠鏡の完成予想図である。3 台の望遠鏡は私たちが研究を行う 2017 年から1年毎に1台づつ配置し順番に測定を行う。2018年の春には図の様に3 台体制で測定を開始する。SAの特徴は
(i)統計感度を向上する為に 250 mK に冷却した超伝導ボロメータを 22,764 個用いる
(ii)ダストの影響を抑える為に 220 GHz、150 GHz、95 GHz の 3 周波 数帯で同時観測する
(iii)広帯域な角度スペクトルを観測するため、全天の 70%の領域を観測する
である。

SA 実験は研究背景で述べた3 つの条件を十分満足する実験である。私たちはSA 実験で得られるデータを解析する事で、インフレーションモデルの推定およびニュートリノ質量和を測定する。図 5 は SA 実験で r=0.1 および r=0.01 測定を行ったときの予想感度である。B モードスペクトルは原始重力 波起源の B モード (黒線) と重力レンズ起源の B モード (橙線) の足しあわせで表される。点線は 95GHz の銀河の影響からくる系統誤差を観測する空の割合毎に表しており、3 つの周波数で測定する事で赤線ま で銀河の影響を抑制出来る。SA 実験の観測によってインフレーションモデルに対しては r < 0.01(信頼度 99%)、ニュートリノ質量和に対しては 40 meV(信頼度95%) の制限を与える事が期待される。

LiteBIRD

Introduction LiteBIRD実験はインフレーションB-modeの究極測定行う事で、代表的インフレーションモデル(Single-field slow-role model with large field inflation)を検証することを目的とした衛星実験である。
LiteBIRDは50GHzから320GHzで6バンドを用いて観測を行う事でr<0.001まで系統誤差を抑制する事を目指す。

KAGRA

Introduction KAGRAは重力波の精密観測を目的とした干渉計型重力波望遠鏡である。KAGRAは全長3kmのマイケルソン型干渉計をもちいる事で数100Mpc程度までにある天体からの重力波信号を観測できる実験である。現在KAGRAは試験運転を行っており2017年の本格運用を目指して準備を進めている。